研究概要 |
ダントロレンNaをDuchenne型筋ジストロフィー患者に投与すると,血清CKが低下し,筋力低下の進行も抑制する効果があるという報告が1991年にBertoriniらによってなされた。 mdxマウスはDuchenne型筋ジストロフィーと共に筋細胞膜の裏打ち蛋白であるジストロフィンの欠損があり遺伝型式もX‐染色体劣性のモデル動物である。 我々はmdxマウスの生理的異常として,静止膜電位の低下した筋線維が正常な筋線維に混在してみられることと,mdxマウスの横隔膜標本では26℃以下の低温で約30%の筋線維に電気的ミオトニーが起ることを見出している。 本年度はダントロレンNaを10mg/lの濃度でTyrode溶液中に混合し,以上のmdxマウスにみられる電気生理学的異常を改善し得るか否か検討した。 又ダントロレンNaをmdxマウスに10mg/kg/日を2週間腹腔内投与して同様に細胞内記録を行って効果をみた。 結果としてはダントロレンNaは静止膜電位については,ダントロレンNa非投与群で-75.4±7.3(S.D.)mV,投与群で-70.9±9.9(S.D.)mVと改善はなく,電気的ミオトニーについては,非投与群で30%にmyotonic burstがみられ,投与群で33%にみられたので,ミオトニーを抑制する効果も認められなかった。in vitroの実験でもmdxの膜電位の改善はなく,又ミオトニーの抑制効果はダントロレンNaには認められなかった。 (結語)ダントロレンNaは5〜30mg/lの濃度で筋標本に作用させると等尺性張力を濃度に応じて20〜35%まで低下させる。筋弛緩剤として用いられている薬であり,筋力低下も起すのでジストロフィー筋にとっては筋力低下というマイナスの効果がある。その上に今回の実験で膜電位の改善はなく,mdxマウスの電気的ミオトニーも抑制しない。 前年度報告したbestatinやmexiletineの方がmdxマウスの筋細胞膜の生理的異常を改善するので,後者の方がダントロレンNaより優れていると考える。
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