研究概要 |
脱髄疾患などの視覚伝導障害には伝導のブロックや遅延,疲労など各種の機序がある。軽度ないしは潜在的な視覚伝導障害を有効に検出するための検査法を開発するという動機で,3年間における本研究が遂行されてきた。われわれはこの経過で,パターン反転二発刺激法を開発した。対象は健康成人70例である。パターン反転二発刺激の刺激間間隔(ISI)は40,60,80,100,120,140,160,180msecの8種類。二発刺激による反応Aから一発刺激による反応Bを差し引いた反応Xを求め,反応Bと反応Xの潜時・振幅を比較した。反応はERGとVEPの両者を測定した。ERGはgold foil電極により、VEPは正中後頭電極によりそれぞれ測定した。ERG潜時のデータでは,反応Bのa(p),b(p),c(p)の各潜時は反応Xのa(p),b(p),c(p)の各潜時よりも短かった。B・X間の潜時差はISIが短いほど大きい傾向があった。ERG振幅のデータでは,b(p)振幅はB<X,c(p)振幅はB>Xという結果であった。B・X間の振幅差はISIが短いほど大きい傾向があった。VEP潜時のデータでは,反応BのP50,N75,P100,N145の各潜時は反応XのP50,N75,P100,N145の各潜時よりも短かった。B・X間の潜時差はISIが短いほど大きい傾向があった。VEP振幅のデータでは,N75振幅はB<X,P100振幅はB>X,N145振幅はB>Xという結果であった。B・X間の振幅差はISIが短いほど大きい傾向があった。条件刺激(一発目のパターン反転)の影響で,試験刺激(二発目のパターン反転)によるERGとVEPが変化することが示された。B・X間の振幅関係の違いより,b(p)波とc(p)波はその起源を異にすることが示唆される。同様に,VEPのN75の起源の性質は,P100やN145の起源とは異なることも明らかとなった。多発性硬化症二例に本方法を応用,正中後頭VEPを測定したところ,反応B,反応Xともに潜時の延長を示した。
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