研究概要 |
昨年度までの研究により(1)[Ca]i測定のためのfura2蛍光比と Ca single channel currentの同時連続記録が可能となり,(2)Caチャネルの活性を増強もしくは不活性化させるそれぞれの[Ca]iのレベルを評価することができた。本年度は[Ca]i上昇に伴うCa電流増強の機序をsingle channelのレベルで明かにすることを目的とし,Ca電流のkineticsの変化を中心に詳細な検討を行って次のような成果が得られた。(1)[Ca]iが数100nM程度に上昇する条件下でCaチャネルの開口確率の増加が認められるが,この際チャネルのopen channel current levelないしconductanceは不変であった。このことは[Ca]iによるCa電流増強効果が表面電荷の変動によるvoltageシフトなどの2次的な効果ではなくチャネル蛋白自体への効果によるものである事を示唆する。(2)チャネル開口確率の増大には1.開口時定数の増大,2.閉口時定数の減少,3.null sweepの減少,4.mode-2 sweepの増大など複数の機序が関与しており,これらの相対的寄与は電位により異なっていた。これらの所見はprotein kinase AによるCaチャネル蛋白燐酸化に際して見られるkineticsの変化と類似しており,[Ca]iによるCa電流増強についてもチャネル蛋白燐酸化の関与が考えられた。(3)[Ca]i高度上昇によるチャネルの不活性化が速い時間経過を示すのに対し,[Ca]i軽度増加によるCaチャネル活性の増強効果は一旦成立すると[Ca]iをコントロール値に戻してもなお数分間は持続する性質を持ち,また一過性に不活性化を引き起こすような[Ca]iの上昇があってもなお存続しえた。phosphorylation仮説の上からはこのことはCaチャネルの機能が複数の燐酸化部位で制御されていることを示唆する。こうした特性や今回明かにされた増強・抑制作用の認められるそれぞれの[Ca]iのレベルを考えあわせると,拍動を続ける生理的条件下の心筋において[Ca]iによるCa電流の調節が実際に重要な働きを担いつつ機能していることがうかがわれた。
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