本年は主として高血圧自然発症ラットを対象に延髄腹外側部におけるアンジオテンシン変換酵素阻害薬の中枢作用機序検討をおこなった。ウレタン麻酔下に下記の4群の12週齢オス高血圧自然発症ラットの延髄腹外側部に脳微小透析法のプローブを挿入し、薬剤投与10分前〜投与後40分までの透析液中のアミノ酸を10分間隔で測定した。(1)変換酵素阻害薬デラプリル静注群、(2)同脳室内投与群、(3)ニトログリセリン静注投与群、(4)対象群の4群に分けた。血圧は(1)〜(3)群で30mmHg〜32mmHgと有意に低下したが、脈拍には変化はなかった。アミノ酸性神経伝達物質の遊出は、デラプリルを静注した(1)群のグリシンとGABAのみが著明に上昇した。他のアミノ酸は有意の変動を示さなかった。グリシンとGABAは、ともに投与後10分まで上昇し20分までに最高値を示し、以後急速に減少した。脳室内投与群ではこのようなアミノ酸放出の有意な変化が認められなかったことから、変換酵素阻害薬が循環血中のアンジオテンシンIIの減少を通じてグリシン、GABAといった抑制性アミノ酸の遊出を延髄腹外側部で増加させるような経路の存在が示唆された。このように従来研究を進めてきた正常血圧ラットのみでなく高血圧モデル動物においても、変換酵素阻害薬による降圧に延髄腹外側部のアミノ酸性神経伝達物質の変動が認められることが示された。
|