研究概要 |
肥大型心筋症から拡張型心筋症類似病態に至る機序とその頻度を解明する目的で研究を行い以下の結果を得た。1.心筋逸脱酵素の変動:(1)CPK-MM isoform.CPK-MMのisoformであるMMa,MMb,MMcのうち、血中ではMMa,MMbが正常対照群に比し高値、MMcは逆に低値であることを明らかにした(Clinical Science 1991:81:723-726)。すなわち肥大型心筋症では安静時においても心筋障害が存在することを示している。(2)CPKおよびLDH isozyme.CPK-MBとLDH1の持続的高値が肥大型心筋症患者の約70%で認められることを報告し(Circulation 1992;86(Suppl I):I-591)、持続的心筋障害は本症の一般的な特徴であることを明らかにした。2.心電図及び心エコー図の変化:肥大型心筋症患者26名の12誘導心電図におけるQRS電位の総和は約70カ月の経過観察により34.8±9.8mVから23.8±9.8mVに減少した。心エコー図より計測した左室拡張末期径は41.8±5.6mmから47.8±7.2mmに増加した。(JACC 1993;21:354A)。経過観察中、6例が典型的な肥大型心筋症から拡張型心筋症類似病態に進展した。3.タリウム心筋シンチグラム:タリウム-201心筋シンチグラムによる50ケ月以上の経過観察により26例の肥大型心筋症のうち17例(65%)ではタリウム摂取の著しい減少が認められ、その減少は徐々に持続的に進行するのが特徴であった(JACC 1993;21:354A)。4.肥大型心筋症患者の冠動脈造影所見:肥大型心筋症では約40%の患者で冠動脈と左室の間にシャントが存在し、本症における持続的心筋障害の一因と考えられる(Circulation 1993;88(Part2):I-211)。以上より、肥大型心筋症では心筋逸脱酵素の上昇、心電図QRS電位減少、タリウム摂取の減少で示される慢性の心筋障害が存在しており、肥大型心筋症から拡張型心筋症類似病態への移行は肥大型心筋症の自然経過の可能性を示唆している。
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