心臓は片時も休むことなく収縮を繰り返し、その生涯にわたるエネルギー消費量は莫大なもとなる。従って、生体にとって心臓のエネルギーの利用効率を高める事は循環調節を行う上で極めて重要なことと思われる。そこで我々は心臓が末梢に一定の仕事を行うさい心臓自身のエネルギー消費がどのようになるか、また血管が心臓からエネルギーを供給される際に如何に効率よくエネルギーを受け取っているかを検討した。さらにこのようなエネルギーの利用効率に圧反射がどのようにかかわっているか検討した。 雑種成犬をトレッドミルの上を走るように訓練した。トレッドミルの速度をかえる事で運動量を変え、それぞれの運動量において心臓の酸素消費および心臓の外部仕事を推定した。その結果、心臓の酸素消費は運動量にかかわらず理論的に予想される最低値を1割以上越える事はなかった。一方、心臓の外部仕事も運動量にかかわらず与えられた前負荷に対し最大に近かった。従って、運動のような日常的によく経験するストレスに対して、心臓のエネルギー効率は極めて良好であった。 心臓のエネルギー効率を高く保つ循環調節の機序を明らかにするため、循環調節で中心的な役割を果たしている圧反射について、その心臓のエネルギー効率に及ぼす影響について検討した。雑種成犬を麻酔し頚動脈洞を他の動脈床から分離した。頚動脈洞圧をサーボポンプで不規則に変動させ、頚動脈洞圧が左室の収縮末期エラスタンスおよび実効動脈エラスタンスに及ぼす影響を伝達特性で評価した。その結果、心室と動脈のエラスタンスは頚動脈洞圧反射で同程度変化し、その変化の動的な性質も両者の間で差がない事が示された。心臓のエネルギー効率は心室と動脈のエラスタンスの比で決まる事から、頚動脈圧反射は心臓のエネルギー効率を保ちながら血圧を安定化させる事が明らかになった。
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