研究概要 |
変性低比重リポ蛋白(変性LDL)の血管内皮細胞に及ぼす細胞生理学的作用と細胞内情報伝達系に対する影響に関して検討し、以下の結果を得た。1.培養内皮細胞(ブタ大動脈およびヒト臍帯静脈)からの血管の強力な収縮物質であるエンドセリンの分泌に対して、変性LDLは抑制した。この機序として変性LDLに豊富に含まれるリゾレシチンが大きな役割を演じていることが判明した。変性LDLが豊富に蓄積している粥状硬化部の動脈ではエンドセリンの産生・分泌はむしろ減少している可能性が示唆された。2.培養内皮細胞(ヒト臍帯静脈)からのtissueーplasminogen activator(tーPA)及びtーPA inhibitor(PAlー1)分泌に対して、変性LDLが如何なる影響を与えるかを検討した。変性LDLはtーPAに対しては抑制するが、PAlー1に対しては増加作用を示した。よって変性LDLは血管内皮細胞の線溶能に全体として抑制的に働くことが推察された。3.変性LDLに豊富に含まれるリゾレシチンは血管内皮細胞内のProtein Kinase Cを活性化し、膜受容体刺激後の細胞内Inositol 1,4,5ーtrisphosphate産生及び細胞内Ca^<2+>動態を抑制することが明らかとなった。これらの作用が変性LDLによる内皮細胞依存性血管弛緩反応の抑制の機序のうちの1つと考えられた。変性LDLが粥状硬化部の血管内膜に沈着し、粥状動脈硬化の病因として重要な役割をはたしていることは既に報告されており、今回の細胞レベルで得られた結果が実際の動脈硬化部の内皮細胞でも生じていることが推察され、粥状動脈硬化の病態を解明するうえで極めて重要な所見であると思われる。
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