発語遅滞を示した幼児の追跡調査では、その将来像において実にさまざまな様相を呈し、知的発達が正常で学業においても全く問題のないものから、いわゆる学習障害や精神遅滞までその範囲は広いことがわかった。そして、幼児期の言語発達遅滞に加えて、多動などの行動異常を合併している場合に予後が不良であることが推測された。また、機能性構音障害といった言語の異常を呈していても、その背景には四肢・体幹の協調運動の拙劣さが存在しており、小児の発達障害は単一な因子で規定されるのではないことを報告した。 発達障害を診断・治療して行く際に、神経心理学的な観点から眺めると展望が開けることがある。成人の発語失行にきわめて類似した症例や失読失書症、ゲルストマン症候群、肢節運動失行などをモデルとして診断した学習障害例では、症状を大脳機能の局在障害と捉えることが有用であった。このような発達障害ばかりでなく、幼児期に著しい脳波異常を示す場合には、学習するための能力が阻害され、大脳機能の局在化に支障が及ぶ可能性があることも言及した。 しかし、発達障害の症状分析に成人の高次脳機能障害が参考になるとはいえ、出来上がった機能の欠落と出来上がるまでの障害とでは、異なる点も多々あるはずである。この点を脳に器質的な障害を有している幼児から検討した。痙性両麻痺では、運動障害に視覚認知障害を合併することが知られており、学業上で大きな支障をきたす。神経放射線学的検討から、この視覚認知障害が、脳の病巣とくに視放線を含む大脳白質の障害に起因していることが示唆された。この病巣は成人の器質疾患で認められるそれとは異なっており、小児に特有なものであると考えられ、これまで指摘されていない新しい知見であった。
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