研究概要 |
平成4年度は既に保存されている逆流性腎症(以下RN)腎生検組織,蛋白尿と臨床検査成績を対象に研究を進めた結果,以下の成績を得た. 1.画像解析装置を用いて,尿細管萎縮と間質線維化領域を計測し観察面積に対する比率(T-I change,tubulo interstitial change,%)で表すと,生検時の腎機能(Ccr,内因性クレアチニンクリアランス)と負の相関を示した(N=14,r=0.823,y=-0.678x+56.63,p<0.01).糸球体硬化程度や糸球体肥大程度と腎機能との相関度より強いことを示したこの結果は採取された標本の範囲では観察できない硬化あるいは無機能糸球体が存在する事を推測させる.実際,硬化を認めない糸球体の連続切片による観察では尿細管の連結がみられないatubular glomeruliが観察されることがある. 2.腎病理学的に類似の像を呈すRNと巣状糸球体硬化症(以下FGS)の蛋白尿を比較検討した.セルロースアセテート電泳法ではRNがFGSに比してアルブミン/γグロブリン比が有意に高値である.SDS-ポリアクリルアミド電泳法ではRNがFGSに比してアルブミン比率,アルブミン/4万以下低分子蛋白比が有意に低値で,4万以下の低分子蛋白の排泄量が有意に多い.液体クロマトグラフィーによる分析ではRNがFGSに比してアルブミン比率,アルブミン/α1酸性蛋白比が有意に低値である.蛋白尿分析ではRNではFGSに比してアルブミン比率が低く,低分子蛋白・陰性荷電蛋白(例えばα1酸性蛋白)をより多く含むことが示された. 3.腎機能の経時的低下を血清クレアチニンの逆数(1/Cr)でプロットしその相関近似直線の傾きを比較すると,低蛋白食に少量のACE阻害剤を併用した群(N=3)では経過観察だけで無加療の群(N=3)の傾きに比して有意に低値である.観察期間が比較的短期間であるので長期的予後の判断は不明であるが,腎機能低下率を軽減させ得る可能性がある.
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