研究概要 |
I.乾癬表皮ではβーadrenergic adenylate cyclaseの反応性の低下とG蛋白質を介するcyclic AMP産生の増強が認められている。従来,グルココルチコイドが乾癬表皮に対して治療効果を示すこと,その際βーadrenergic adenylate cyclaseの反応性の上昇がもたらされることが分かっていた。当該年度の研究においては,角化能をもつラット胎児関来の表皮細胞であるFRSK細胞を用いてこのグルココルチコイド作用の解析を行なった。その結果(1)FRSK細胞がglucocorticoid処理によりβーadrenergic adenylate cyclaseの反応性を上昇させること(2)この作用が蛋白合成系を介しており,またglucocorticoid特異的であること(3)このβ responseの上昇はβ_2ーadrenergic受容体の発現増強を介していることが示された(Takahashi&Iizuka,Br J Dermatol 124:341ー347,1991)。他のいくつかの細胞系でglucocorticoidによるβーadrenergic受容体の発現調節が示されているが,表皮細胞でははじめての証明である。 II.すでに述べたように乾癬表皮ではβーadrenergic responseの低下とともにG蛋白質(ならびに酵素本体)を介する反応性の上昇が認められる。このメカニズムとしてprotein kinase Cを介するものが従来から知られていたが,当該年度の研究により受容体刺激にともなう反応性低下(desensitization,refractoriness)でもβーresponseの低下と連動した類似の変化がおこることが明らかとなった(Iizuka et al,Biochim Biophys Acta 1093:95ー101,1991)。両者は独立したメカニズムで表皮adenylate cyclaseの反応性を制御しており,作用機序は全く異なるものと推定される。表皮のadenylate cyclaseは,その意味で複雑な調節機構の下にあることは明らかとなったが,乾癬表皮における反応性の変動が,どちらを主としたものであるかは今後の検討課題である。
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