研究概要 |
本年度は3年間の研究の最後の年度にあたるため統括もあわせて行う。われわれの研究によりprotein kinase C依存性シグナルと乾癬においてみられる情報伝達系の異常との類似が明らかになった。protein kinase C活性化により引き起こされるbeta-adrenergic adenylate cyclase反応性の低下やインボルクリンの誘導はその代表的な例である。われわれの研究結果は表皮細胞においてcornified cell envelopeの形成が極めて優先順位の高いシステムとして細胞増殖亢進時にも強く保持されていることを示している。インボルクリンを中心とするcornified cell envelope形成機構の解析はprotein kinase Cを軸として、さらに検討されるべきものと考えられる(Iizuka,Takahashi:Int J Dermatol 32:333-338,1993)。 本年度の研究結果で特記すべきものとしてレチノイドのFRSK細胞におよぼす作用があげられる。すでに、われわれはレチノイドが豚表皮の器官培養系においてbeta-adrenergic adenylate cyclase反応性の増強をきたすことを報告しているが、ラット胎児表皮細胞由来のFRSK細胞を用いた系では、レチノイドは逆にbeta-adrenergic adenylate cyclase反応性の低下を起こすことが示された(Takahashi,Iizuka:J Dermatol Sci 5:122-129,1993)。この作用はthymidine取り込みの亢進と連動しておりbeta-adrenergic adenylate cyclase反応性と表皮細胞増殖の間には負の相関があることが推定される(豚表皮ではレチノイドは細胞増殖を低下させる)。従来からレチノイドは培養条件により、増殖亢進と低下の相反する作用を示すことが知られている。われわれの結果はレチノイド作用の解析にあたり、表皮細胞の増殖状態が重要な因子であることを示唆している。
|