1)ヒト真皮メラノサイトは成人正常皮膚に生涯にわたって存在すると言う指摘が古くからある。しかしこの概念は最近まで軽視されてきた。我々はヒト真皮メラノサイトの存在を光顕ならびに電顕的に確認し、6人の正常背部皮膚にそれは全例に存在した。これらの結果から蒙古斑の消褪はメラノサイトの消失ではなく、皮膚の厚さ、拡がりの結果みとめられるメラノサイトの分布密度の低下に基ずくものと推察した。 2)サルのメラノサイトは真皮にある。我々はカニクイザルにおいて、メラノサイトが静脈の周囲に鞘状にネットワークを作り存在していることを報告、ヒトにおいても、血管周囲に真皮メラノサイトは分布する傾向が見られ、とくに青色母斑でその傾向が顕著に観察された。この現象はメラノサイトのまだ未知なる機能を推察せしめるものである。今後の研究課題である。 3)青色母斑において、時に所属リンパ節に 'いわゆる良性転移 'を見ることがある。また、乳癌で郭清されたリンパ節にも、黒色斑が認められることがある。我々はこれらがリンパ節のメラノサイトであり、その部に発生した青色母斑であることを提唱した。リンパ節にも間葉メラノサイトが存在するのである。この点から、今後間葉系メラノサイトも系統的整理が必要となる。 4)ヒト真皮メラノサイトはメラニン産生能とともに、細胞周囲をとり囲むextracellular sheathの存在が、細胞同定に有用な所見である。しかしこのsheathの成分や機能は全く不明であった。 我々はこのsheathが、VI型コラーゲンをふくむことを免疫電顕的に初めて明らかにした。またこのsheathが、メラノサイトとともに、しばしば弾性線維をとり囲むことを観察した。 5)臨床病理学的見地からlate-onset dermalmelanocytosisの疾患概念を検討した。そして高齢者の上背部に出現するdermalmelanocytosisを新たに見出した。 6)また基底細胞癌の腫瘍問質にもメラノサイトが出現することをはじめて報告した。膠原線維、線維芽細胞との関連で注目される所見である。
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