てんかん発作と海馬の苔状線維の発芽について検討し、つぎの結果をえた。 1.E1マウスにおける苔状線維の発芽:E1マウスは遺伝性てんかんモデルで、このモデルにおけるけいれん発作は海馬に起源すると考えられている。しかし、E1マウスでは、けいれんの前後のいずれにおいても苔状線維の発芽は観察されなかった。このことは、E1マウスにおける海馬のてんかん源性の獲得には苔状線維の発芽は関与していないことを示している。つまり、E1マウスはてんかん発作発現と苔状線維の発芽との関連性を知るうえでのモデルにはなりえない。 2.扁桃核キンドリングに与える顆粒細胞破壊の効果ーWistar系とSD系の比較ー:顆粒細胞の破壊はWistar系のキンドリング形成速度には影響を与えなかった。しかし、キンドリング完成後に顆粒細胞を破壊するとけいれん発作の発現が抑制された。一方、SD系では顆粒細胞の破壊によりキンドリング形成速度が著明に遅延した。しかし、キンドリング完成後の顆粒細胞の破壊はけいれん発作の発現に全く影響を与えなかった。Wistar系ではCA3/CA4上昇層には苔状線維は投射していない。しかし、キンドリング後にはこの領域に苔状線維が発芽してくる。一方、SD系ではキンドリングを行わない正常の状態でCA3/CA4上昇層に苔状線維が分布している。従って、CA3/CA4上昇層に分布する苔状線維は辺縁系発作の全般化に重要な役割を担っていることが示唆される。 3.苔状線維の発芽に対応した樹状突起の変化:一般に、苔状線維の発芽は歯状回において最もよく観察される。この部位ではMAP2の免疫反応性が著明に増大していた。MAP2は樹状突起に特異的に存在することから、これは苔状線維の発芽に対応して樹状突起も増加していることを示唆する重要な所見と考えられる。
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