本研究は高齢化に伴う老人性中枢神経障害の原因について、中枢神経シナプスに関与するタンパク質に着目し、その質的、量的変動から脳の加齢による障害についてアプロ〜チすることであった。ラットの胎児から老齢に至る脳のシナプスを調製し、電気泳動的にタンパク質の分析を行なうと、Agingによってシナプスを形成するタンパク質に、大きな差異が認められる。その中で、分子量5万のタンパク質が、胎児に特異的であり老齢では認められない。この点に注目して本研究ではこのタンパク質の精製と性質を明らかにし、その作用と神経細胞の障害との関連についても解明の糸口とする事を試みた。 ラット胎児の脳シナプスからゲル濾過、電気泳動法を組み合わせて本タンパク質を精製した。その結果SDS-PAGEで単一のバンドにまで精製され、糖鎖は含まず、分子量は5万である。このタンパク質の部分一次構造を決定したが、これについてconputer searchにより検索した結果、本タンパク質と同一のものの報告は今のところない。また、このシークエンスの中に疎水性アミノ酸が16残基の連続した配列部分があり、このタンパク質が膜結合型、あるいは膜貫通型である可能性も示唆された。 このタンパク質の機能は不明であるが、培養神経細胞に作用させると、神経細胞の増殖を促進することと、突起伸展活性を持つことが明らかにされた。 これらの研究成果はこのタンパク質が加齢によって消失し、神経の増殖と分化に何らかの機能を果たしている可能性を示唆し、ひいては神経の生存の一端を担う可能性を示唆する。このタンパク質の消失が加齢による中枢神経障害と直接結び付くかは今後の大きな課題である。
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