研究課題
諸臓器が移植後に正常に機能する上で重要な臓器血流量に対し、その血管吻合部の治癒状態が移植術後に投与される免疫抑制剤によってどの様に影響するか、また腹腔内臓器保存の際の組織のviabilityがその潅流液でどの様に影響するかを知る目的で以下の実験を行った。I)雑種成犬の腹部大動脈に径6mm長さ5cmのEPTFEグラフトを、中枢側は端端吻合、末梢側は端側吻合で間置して吻合部内膜肥厚モデルを作成し、以下の3群に分けて検討した。(1)コントロール群(2)免疫抑制群-1:FK506 0.1mg/kg筋注7日毎投与(3)免疫抑制群-2:FK506 0.2mg/kg筋注7日毎投与 これら3群を6ヶ月飼育後、吻合部の肉眼的および組織学的検討と内膜肥厚の定量的測定を行った。その結果、免疫抑制群では腹腔内臓器を移植、生着させるのに有効なFK506の血中濃度より低い濃度で内膜肥厚が抑制された。また中枢側吻合部および末梢側吻合部toe側ではコントロール群<免疫抑制群-1<免疫抑制群-2の順で内膜肥厚が抑制されたが、末梢側吻合部heel側では各群間に有意差を認めなかった。以上より吻合部内膜肥厚には吻合部の形態だけでなく宿主側の免疫学的なメカニズムも関与していることが示唆された。II)人工血液(安定化ヘモグロビン溶液・PERFLUOROCHE MICALS溶液)を用いての臓器保存の実験では潅流臓器の障害がみられ、実験動物の生存率はわずかにしか改善しなかったのに対し、アイロプラスト(プロスタグランディンI_2誘導体)を使用した実験では実験動物の生存率の著明な改善をみた。また潅流臓器の障害も軽度であった。すなわち酸素運搬能を有する潅流液を使用するよりもプロスタグランディンI_2誘導体添加の潅流液を使用して微小循環における血流を改善した方が良好な臓器保存が観察された。以上により臓器移植においては潅流液よりも微小循環における血流を保つことが肝要であると思われた。