研究概要 |
臨床的に小腸癌の発生は他の消化器癌の較べ極めて少ない。発癌に関する小腸の臓器特異性を解明するために、ラットを用い回腸を遠位結腸間に間置したモデルを作りMNNGを注腸投与した後、術後10週目、20週目、30週目、40週目と経時的に屠殺し間置回腸と遠位結腸のMNNGによる腫瘍誘発性を比較検討し、さらにIrdu,BrduによるTime sequential double labeling methodを用い免疫組織学的染色を行い粘膜上皮細胞の細胞動態を解析した。有効動物数は対照群として生食注腸40週群が16匹、MNNG注腸群は60匹でその内訳は、10週群10匹、20週群11匹、30週群20匹、40週群19匹であった。腫瘍発生率は生食注腸群0%、MNNG注腸10週群0%、20週群54.5%、30週群60.0%、40週群68.4%であり、癌腫発生率は生食群0%、MNNG注腸10週群0%、20週群45.5%、30週群35.0%、40週群52.6%であった。MNNG注腸群における腫瘍発生部位には明かな差がみられ、一匹当りの腫瘍個数は間置回腸が0.03個と遠位結腸の0.82個に比し有意に低率であった。MNNG注腸群において、細胞増殖に関するLI;labeling index、Ts;sーphase transit time、To;potential doubling time、および増殖帯比に有意差は認めなかったが、粘膜上皮細胞の腺窩よりの脱落時間Mig;migration timeが遠位結腸では82.2±17.7時間なのに対し間置回腸では39.2±9.1時間と有意に短かった。また脱落時間Migは間置回腸で経時的に短縮する傾向を認めた。以上より、間置回腸粘膜は遠位結腸粘膜に比しMNNGによる腫瘍発生に明かな抵抗性を有することが示された。この小腸にみられる発癌抵抗性の一因として、小腸粘膜上皮細胞の腺窩底より表層への速い脱落時間が関与している可能性が示唆された。 今後、小腸が有する極めて高いXOD活性の発癌防御機構との関連性を明らかにすめため、間置回腸と大腸でのXOD活性の差を解析し検討を加える。
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