研究概要 |
雑種成犬を用いて92%以上膵切除を行い,膵切除のみのコントロ-ル群(コ群),膵切除直後よりレギュラ-インスリンを空腹時血糖が90〜150mg/dlに維持されるよう持続点滴静注したインスリン投与群(イ群)の2群に分けて,亜鉛代謝,早期細胞増殖,膵再生率および生存期間につき検索した。 【成績】亜鉛代謝では,血清亜鉛(術前平均値66.5μg/dl)は,コ群では3日目に37.3と有意に低下し,7日目に前値に復したが,イ群では7日目まで低下はなく,前進と同様の値で推移した。尿中亜鉛(術前平均値0.2mg/day)は,コ群では5日目には0.59と著増したが,イ群では0.27と軽度の増加に留まった。膵組識中亜鉛を術前値に対する対前率でみると,コ群では7日目に平均48.1%と低下したが,イ群では平均250%と著明に上昇した。次に早期細胞増殖をみると,残存膵のDNA合成( ^3HーThymidine取り込み)およびpolyamine合成(ornithine decarboxylase活性)は,ともに3日目にピ-クを示し,以後漸減したが,イ群ではコ群に比し有意に高値を示した。また術後7週の膵再生率をみると,コ群は平均50.7%であったのに対し,イ群は平均151.2%と有意に高値を示し,術後7週における膵再生率と術後3日目のDNA合成およびpolyamine合成との間にはそれぞれ有意の相関が認められた。生存期間をみると,コ群では全例が術直後より糖尿病を発症し,糖尿病を持続したまま7週以内に死亡したのに対し,イ群では12週まで犠牲剖検を除く全例が生存し,うち57.1%が糖尿病より回復した。 【結語】膵広範切除に伴うインスリン欠乏状態では,亜鉛の尿中排泄が亢進し,血清および膵組識中亜鉛は低下したが,インスリン投与より尿中排泄は抑制されて,血清亜鉛は維持され,さらに亜鉛の膵組識への取り込みが示された。また,インスリン投与により早期細胞増殖は亢進し,さらに膵再生率および生存期間も有意に改善され,術後早期からのインスリン投与の有用性が示唆された。
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