本研究は細胞障害及び循環障害のパラメ-タ-として肝ミトコンドリアのエネルギ-代謝機能と肝血流動態を同時に検討し、電子顕微鏡所見の検討をも加えることにより機能的かつ形態的に温阻血障害メカニズムを解明することを目的としている。さらに障害抑制作用を有する薬剤効果を検討し、肝臓外科ならびに肝移値への臨床応用をめざすものである。雑種成犬の肝臓に60分間の完全温阻血を加えると、血管内に微小血栓を形成し、再潅流後には門脈血流の著しい減少と門派圧の上昇によって門脈領域のうっ血を来し、さらに全身の循環動態の低下を招き死亡する。キサンチンオキシダ-ゼの阻害剤であるアロプリノ-ルを温阻血開始前に投与すると、循環動態には全く影響はないが阻血中の肝組織アデニンヌクレオチド量が高く維持され、過酸化脂質生成も抑制され、肝ミトコンドリアの酸化還元状態を反映する動脈血中ケトン体比は非投与群に比べてはるかに早く回復することが判明した。しかしこの前処置を行っても肝ミトコンドリアや内皮細胞の電顕所見、さらに生存率は全く改善せず、同薬剤の抗温阻血障肝効果はあまり強くないと推察された。また実験途中ではあるが温阻血中の肝内残存血液をリンゲル液、さらには臓器保存液で置換しておくと、動脈血中ケトン体比の上昇がさらに速やかとなり、生存率も向上することから温阻血中の肝内残存血液が肝温阻血障害に大きく関与していると示唆された。今後の展開として、温阻血中の肝内残存血液がどのような機序で温阻血障害をもたらすのか、循環動態はどう変化するのか、また他の抗温阻血障害効果を持った薬剤ではどのような結果が得られるか等を解明することが当面の課題と考えられる。
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