前年度までに犬を用いて門脈、肝動脈、肝上部および肝下部下大静脈を完全遮断し、同時に門脈および肝下部下大静脈と外頚静脈との間に遠心型ポンプを用いたバイパスを設置し、門脈および下大静脈領域の欝滞を取り除き、全身の循環動態を安定させた完全肝温阻血モデル(total hepatic vascular exclusion)を確立した。このモデルを用いて60分の完全肝温阻血を行いその後肝血流を再開すると、門脈圧が急激に上昇した後に正常の約2倍で推移した。肝動脈血流は術前値の76%程度に維持されたが、門脈血流は27%程度に低下し門脈領域のうっ血を来した。これに伴い全身の平均動脈血圧が術前の約1/2に低下して肝臓全体の血流量は術前の46%に低下した。すなわち60分の肝完全温阻血により肝の微小循環が傷害され、門脈の欝滞を来し、結果的に全身の循環動態にまで影響を及ぼしたと考えられた。この状態での肝エネルギー代謝機能は、肝エネルギーチャージ及び動脈血中ケトン体比の低下に示されるごとく血流を再開しても術前状態には回復せず、実験動物はすベて6時間以内に死亡した。これに対して温阻血開始10分前に、100mg/Kgのキサンチンオキシターゼ阻害剤(アロプリノール)を投与しておくと、全身および門脈の血行動態は全く非投与群と差が無いにも関わらず、動脈血中ケトン体比は30分で正常範囲に回復し、肝アデニンヌクレオチド総量の回復も速く、エネルギーチャージも比較的高く維持され、再潅流時に産生される過酸化脂質量も抑制された。しかし再潅流60分後の電子顕徴鏡所見では両群ともにミトコンドリアの膨化が認められ、アロプリノールの効果は認められなかった。結論として、アロプリノール投与により肝温阻血の循環動態や形態に及ぼす影響は抑制できないが、肝ミトコンドリアのエネルギー代謝に対してはその予防効果が認められた。
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