心臓移植後遠隔期に発生する冠動脈硬化症の病態を解明することと、その予防法を明らかにすることを本実験の目的とした。平成4年度は、異所性心移植モデルを臨床の心臓移植の血行動態により近付けたモデルとして冠動脈硬化について検討を行い、またPGI_2の冠動脈硬化予防効果について検討した。 異所性心移植モデルとして有名なOno-Lindsey法は冠循環のみを行うnon-working modelであるが、我々は異所性心移植モデルとして、左室に負荷のかかるworking modelを作成した。そのモデルは、ドナー心に心房中隔欠損と三尖弁閉鎖不全を作り、肺動脈を結紮し、右房と上行大動脈をレシピエントの下大静脈と腹部大動脈にそれぞれ吻合することによって作成した。 このworking modelとnon-working modelをそれぞれ作成し、急性期(Tx後20日)、慢性期(Tx後60日)の拒絶反応と左室の状況を比較し、working modelの有用性を検討した。急性期の拒絶反応は、working modelとnon-working modelともにGrade3.(Billinghamらの分類)に相当し、差は認めなかった。慢性期(Tx後CsA10mg/day×20日間投与後.60日目に犠牲死)では、working modelとnon-working modelともにGrade2.(Billinghamらの分類)に相当し、拒絶反応では大きな差を認めなかった。だが、non-working modelの約半数に左室内の器質化血栓を認め、Working modelでは左室内血栓をほとんど認めなかった。また、左室に負荷がかかった場合の単核細胞侵潤の局在(心室内膜側や血管周囲)に関してさらに検討を進めている。 移植後の冠動脈効果の予防法として、PGI_2100μg/kg60日間(皮下注)使用群とPGI_2非使用群を作成し、慢性期の移植心の冠動脈病変の進行の差を比較した。PGI_2使用群・非使用群ともに冠動脈病変の出現を認めているが、非使用群のほうで内膜の肥厚が著明であり、内膜への平滑筋細胞の遊走を認めた症例もあり、移植心の冠動脈病変の予防法として、PGI_2が有効と思われる傾向が認められた。
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