研究概要 |
癌遺伝子や癌抑制遺伝子の多段階的な異常は、DNA変異を引き起こし、さらには、RNAおよび蛋白の異常が発現する。これらの変異は細胞の癌化のみならず、細胞周期の制御やアポトーシスを誘導して、細胞増殖・浸潤・転移能などの悪性度に深く関連すると考えられる。本研究の初年度では、肺腺癌ではras遺伝子の点突然変異による活性化が、その予後を不良にして、悪性度の指標となることを示した。第二年度で、非小細胞性肺癌におけるras遺伝子変異症例は、第2癌の発生頻度が比較的高く、ras遺伝子の変異が二次性の癌発生の因子の一つと考えられた。本年度では、九州大学第二外科で切除された非小細胞肺癌79例におけるp53遺伝子のエクソン5から8領域の突然変異をPCR-SSCP法を用いて解析した。 その結果は、 (1)79例中25例(31.6%)にp53遺伝子の突然変異を認めた。 (2)p53遺伝子変異の領域は、エクソン5,6,7,8にそれぞれ9、4、8、5症例づつ認めた。なお、腺癌の1例はエクソン6および7の2領域に突然変異を認めた。 (3)p53遺伝子変異をもつ症例の臨床病理学的な解析をおこなうと、組織型別には、腺癌15例(37.5%)、扁平上皮癌7例(35.0%)、大細胞癌4例(23.5%)に認められたが、組織型間でのp53遺伝子変異の発生頻度には有意差は認めなかった。また、臨床病期別にも、I期15例(36.5%)、〓期5例(38.5%)、〓A期4例(26.7%)、〓B期0例、〓期2例(50%)であり有意差は認めなかった。 (4)予後を3年生存率で検討すると、完全切除症例のp53遺伝子変異群では56.5%であり、変異を認めない群の81.3%に比し不良であった。さらに、I期症例でも変異群の3年生存率は58.5%であり、変異のない群の100%に比し予後は不良であった。 以上により、p53遺伝子の突然変異を起こした症例は、肺癌においてその悪性度をあらわす指標の一つになると考えられた。
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