研究概要 |
本研究計画においては、クモ膜下出血後の脳動脈攣縮の発生において、動脈壁の代謝障害の果たす役割を検討した。我々は、イヌの脳血管攣縮modelにおいて、脳底動脈壁中のATP,GTP,creatine phosphateの含有量が著名に低下していることを示した。これらの高エネルギー燐酸の低下が血管狭小化の原因とどのように関わっているかを検討するために、平成三年度においてはイヌのクモ膜下出血modelを用い、攣縮動脈壁内の高エネルギー燐酸レベル低下の時間経過を詳細に測定した。血管撮影上の動脈攣縮の時間経過と高エネルギー燐酸の変化とは良く関連しており、後者は出血後早い時期から大きい変化を示すため、両者の間の因果関係は密接であると考えられた。また総アデニレイト含量、総クレアチン含量共に著明に減少しており、脳動脈壁が重篤な代謝障害、栄養障害に陥っていることが示された。平成四年度には、このような代謝障害がどのように収縮制御機構に影響し持続的血管狭窄をおこすのかを検討するために、平滑筋の細胞内カルシウム濃度の測定および膜透過性の検討を行った。攣縮状態にあるイヌ脳底動脈の平滑筋の細胞外液カルシウムー張力発生曲線を測定したところ、正常標本に比して張力発生の感度は低下していた。細胞内カルシウム濃度と細胞外カルシウム濃度との関係は膜透過性を表現する一つの指標であるが、外膜側から計測したところでは正常脳底動脈と攣縮脳底動脈との間に違いは見られなかった。静止状態のカルシウムイオン濃度も差異を認めなかったが、今回の方法では、障害、変化が強いと思われる平滑筋細胞は測定に含まれていない可能性が強く、さらに検討中である。細胞膜の透過性を核酸結合性の水溶性蛍光色素を用いて調べたところ、攣縮血管壁ではこの色素で染まる平滑筋の数が増大しており、代謝障害に関連して膜の透過性が昂進しており、細胞障害が起こっていることを強く示唆するものである。
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