研究概要 |
温熱の血管内皮細胞に与える影響について,形態及びその血液脳関門としてのバリヤー機能に及ぼす影響について検討した。透過性の検討は,コラーゲンタイプIとフィブロネクチンでコートしたフィルター状の膜を有する上下一槽構造のシステムを独自に作成して行った。トレーサーとしては主にフルオレッセン標識アルブミンを用いた。44℃の温熱負荷(1時間)では,多くの内皮細胞は細胞骨格のアクチンが破壊され24時間以内に細胞死に至るほどの強い形態学的変化を受けた。透過性は有意に亢進したが,これは強い形態変化に伴う細胞間隙の拡大によるものと考えられた。43℃加温では,atrophy,microvacuolation等の軽度の形態学的変化を生じ生存率も低下したが,透過性の亢進は認められなかった。しかし,アクチンの一過性の核周囲集積を伴うことから何らかの細胞保護機構が関与すると考えられた。42℃加温では,形態,生存率,透過性のいずれにも明かな変化はみられなかった。しかし,アクチンは遅発性に43℃の場合と同様の変化を示し,軽度な細胞骨格系への影響が示唆された。透過性亢進の機序について,アルブミンとデキストラン(分子量7万)の比較,37℃と5℃での温度差による比較などを行ったが,アルブミンがエネルギーを要する細胞内輸送により透過する傾向がみられたものの,この透過機序がどの程度関与するかについては明確にできなかった。抵抗値の検討などから今回用いた二槽構造のモデルにはtight junctionは少なくギャップがかなりあると思われた。今後,細胞外マトリックスや液性因子,astrocyteなどの影響を検討し,より厳密な血液脳関門モデルを作成することにより細胞骨格の変化や温熱耐性機構と透過性変化の関係についてさらに検討していく必要があると思われた。
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