研究概要 |
アルツハイマー病モデルとして前脳基底核(NBM)破壊ラットに対して自家頸部迷走神経節(以後,X)を脳内移植後,4週間経時的にアセチルコリン(ACh)系マーカー(choline acetyl-transferase:CAT,acetylcholine transesterase:AChE活性,^3H-QNB結合能測定によるムスカリン受容体(mAChR)と事象関連電位(P300)を連続測定し,X移植の治療効果を判定した.NBM破壊とX移植の確認のためAChE染色(Tago法)を行った.その結果,移植Xは4週後も脳内に生着し,AChE染色に陽性であった.P300潜時は正常群で356.6±21.3msec.破壊群では破壊4週間後も400msec以上に遅延したが,X移植群では移植後2週目から351.0〜360.0msec以下に改善した.ACh系マーカーは,破壊群で1週後,破壊側CAT活性が健側に比べCC部で約65%に,SS部で約75%に低下した.破壊2週以後はSS部CAT活性は改善傾向を示したが,CC部は改善不良であった.3週後,AChE活性は最も低下した(CC部で著明)が,mAChR値はピークを示した.X移植治療群ではCAT活性は移植2週以後,CC,SS部ともに上昇改善した.AChE活性もSS部で2週以後,CC部で3週以後改善した.しかしmAChR値は移植2週以後,全脳において低下し続けた.感覚刺激に対する大脳皮質の電気的反応は新皮質表面から放出されるAChにより大きな調節を受けており,新皮質に投射するAChニューロンの集合体であるNBMの傷害は新皮質のCAT活性を低下させ,事象関連電位(P300)を抑制する.本実験でNBMの破壊後CAT活性が低下しP300の潜時が遅延したが,X移植後改善した.これは脳内に生着したXのAChニューロンがAChを産生したためと考えられた.NBM破壊3週後,一過性にAChE活性が低下しmAChR値が増加した現象は,CC部での急激なCAT活性低下によるACh減少に対する代償的変化と考えられた.これらはACh量によるAChEの産生調節,中隔野破壊後の海馬におけるムスカリン結合部位の増加とよく一致する.X移植後のAChEの漸増とmAChR値の漸減も生着したX内AChニューロンによるACh産生増加に並行した変化であると考えると説明し易い.本実験で以下の結論を得た.1.急激なCAT活性低下によるAChの減少に対し,AChE(ACh分解酵素)活性の低下と受容体結合能の増加という代償機構が働いた.2.アルツハイマー病モデルラットでXの脳内移植はCAT活性を高めコリン作働性の神経情報伝達を正常化した.
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