翼口蓋神経節から脳血管外膜への投射神経経路は、従来、主として変性実験の結果に基ずき推定されていた。本研究では、wheat germ agglutinin-conjugated horse radish peroxidase(WGA-HRP)を順行性の標識物質として採用し、ラットの翼口蓋神経節内に注入することにより翼口蓋神経節に由来するすべての節後神経を順行性標識し、脳血管に至る経路を調べた。その結果、1.翼口蓋神経節の節後神経の一部は篩骨孔を貫通し、前篩骨動脈に両側性に分布する。2.前篩骨動脈から前大脳、内頸、中大脳動脈に神経分布が進展している。3.後大脳および脳底動脈にはほとんど標識神経は認めないことが明らかとなった。以上の結果は、従来知られていた変性実験の結果を補完するものである。 次に、クモ膜下出血と脳室上衣上神経との関係について調べた。脳室上衣および上衣上には上衣上神経(Supraependymal nerve)と称される自律神経が密に分布することが知られているが、その存在意義、病的状態に於ける役割等については解明されていない。クモ膜下出血のもとでは、脳血管神経の様に脳脊髄液に接して存在する神経は変性壊死し、この現象がクモ膜下出血の病態生理と密接に関係していることが指摘されている。ラットのクモ膜下出血モデルを用い、クモ膜下出血後の上衣上神経の分布の変化を免疫組織化学的に調べた。その結果、クモ膜下出血後、早期よりすべての脳室の上衣上神経は著明に減少し、回復するのに約1月を要することが明らかとなった。
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