1.脳血管閉塞が脳血管神経分布に及ぼす影響 各種ラット脳梗塞モデルを用いて、脳血管神経の分布の変化を比較検討し、次の結果を得た。(1)脳血管を外膜側より電気凝固して脳血管閉塞を誘発した場合(田村の方法)、脳血管神経は副交感および交感神経共に閉塞末梢部血管壁で消失する。(2)脳血管内にナイロン糸を挿入することにより脳梗塞を誘発した場合(Longaの方法)、閉塞血管外膜の神経分布は変化しない。(3)頚部操作で一過性の脳虚血を招来させた場合(Pulsinelliの方法)、脳血管神経の分布は変化しない。 2.クモ膜下出血が脳室上衣上神経および脳血管神経に及ぼす影響 脳室上衣上神経および脳血管神経は、共に脳脊髄液と直接接触する形で存在するところから、クモ膜下出血が両神経に及ぼす影響をラットのクモ膜下出血モデルを用いて検討し、下記の結果を得た。(1)脳室上衣上神経内のセロトニン活性および脳血管神経のカテコラミン蛍光は、クモ膜下出血発症直後より著明に低下する。(2)脳室上衣上神経内のセロトニン活性の回復には4週間を要する。 3.グリセロールの三叉神経節内注入が脳血管神経に及ぼす影響 ラット三叉神経節内にグリセロールを注入し、1、2、4週間後に三叉神経節内および脳血管外膜での各種神経の分布の変化を調べ下記の知見を得た。(1)三叉神経節内では注入後4週にわたって、サブスタンスP(SP)、カルシトニン遺伝子関連ペプタイド(CGRP)を含有する神経節細胞および神経線維が著明に変性した。(2)脳血管外膜では副交感、交感神経の分布に変化はなかったが、SPおよびCGRP含有神経線維の分布の低下傾向を認めた。 4.順行性標識法による副交感神経が脳血管に至る経路の解明 wheat germ agglutinin-conjugated horseradish peroxidase(WGA-HRP)を順行性の標識物質として用い、WGA-HRPを翼口蓋神経節内に注入し、標識された節後神経が脳血管に至る経路を調べ、以下の知見を得た。(1)翼口蓋神経節の一部は、篩骨孔を経て前頭蓋窩に存在する両則の前篩骨動脈外膜に至る(2)更に、標識された神経線維は前篩骨動脈外膜より両側の前大脳、中大脳、内頚動脈に到達する。(3)後大脳、脳底動脈外膜では標識神経の分布は稀である。
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