本研究は頭蓋内圧・圧波-plateau wave-の発現機構を脳血管床の神経源性因子として重要な役割を果たすと推定される脳幹に注目し解明することを目的とした。【I】脳血管床の制御に関与する脳内局在部位を硬膜外バルーン法による頭蓋内圧亢進モデルの作製によって検討した。 swelling群、no swelling群の組織学的検索から、swelling群では、視床下部、中脳及び脳幹網様体に小出血巣を認め、Evans Blueの漏出がみられ、BBBの破錠による脳浮腫が観察された。また毛細血管の拡大がみられ脳内血液含有量の増大がレーザー血流量計で示された。【II】青斑核複合体(LC)、コリン作動受容性橋領域(CPA)、延髄網様体(MRF)が脳血管床の制御にどのように関与しているかを単一ニューロンの発射活動の記録、脳内薬物微量注入法を駆使して検索した。(i)LCにグルタメイトを微量注入すると、ICPは下降し、血圧の極軽度の上昇がみられた。単一LCニューロンの発射活動を連続記録した結果、plateau波の圧上昇相に先行してスパイク発射が減少し、plateau相では極度に減少し、また圧の下降相に先行してスパイク活動が増加した。(ii)CPAにAchを微量注入するとICPの上昇が惹起された。CPA単一ニューロンの発射活動の増加とICPの上昇が発射頻度の低下とICPの下降が密に相関していた。(iii)MRFにグルタメイトを微量注入するとBPの上昇を伴うICPの下降が惹起された。MRFニューロンの発射活動はLCニューロンと類似しており、ICPの上昇に先行して発射活動が顕著に低下した。(IV)CPAニューロンとLC、及びMRFニューロン間には抑制性結合が存在し、CPAニューロンの軸索分枝がLCとMRFの両者に下行していた。【III】CAPが何等かの原因で発火すると中枢性nor-adrenergic system(LC、MRF)は抑制され、脳血管が拡張し、脳血管床の増大を来し(脳血流量の増加)頭蓋内コンプライアンスの低下した状況ではICPの上昇が惹起されplateau waveが形成される。
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