1.われわれは、従来の研究により、ランニングを長期間負荷したBipedal ratを用い、速い引っ張り速度(8.3mm/sec)において膝前十字靭帯の最大破断強度が低下することを明かにした。しかしながら、実際に膝外傷を引き起こす障にはより速い外力がかかるものと考えられる。そこで本年度は、1×10^3mm/secの引っ張り速度を得ることが可能な衝撃引っ張り装置を新たに作製し、同実験モデルを用いて力学的検討を行った。その結果、運動負荷群においては最大被断強度の有意な低下を認め、運動負荷による前沢字靭帯の力学的疲労現象の存在が、より速い引っ張り速度においても確認された。さらに荷重緩和試験を行い、得られた結果より3要素モデルを用い、靭帯の粘弾性特性を解析した。その結果、運動負荷群では非負荷群に比べ、荷重緩和が小さく、粘性成分の増加が認められた。以上の結果より、運動負荷を加えた膝前十字靭帯においては粘性成分が増加し、その結果速い引っ張り速度における力学的強度が弱化することが示された。現在、電子顕微鏡を用い、運動負荷群における線維芽細胞の形状ならびに細胞内小器官の変化、さらにコラ-ゲン線維の径の変化などについて検討中である。 2.運動負荷による膝前十字靭帯の疲労現象を、力学的、病理学的、生化学的により詳細に解析するためには、より大きな実験動物である家兎を用いた実験モデルの作製が必要である。そこで当初、電気刺激により家兎に跳躍を行わせる実験モデルを作製した。しかしながら、予備実験により、この方法では家兎に十分な運動負荷を与えることができず、本研究の実験モデルとしては不適切であることが判明した。そこで新たに駆動式間歇牽引装置を作製し、家兎脛骨を介し、間歇的な前方引き出し力を繰り返し加えることにより、前十字靭帯に直接負荷を加える実験モデルを作製した。今後本モデルを用い、解析をすすめる予定である。
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