1.前年度は、ランニングを強制した二足白鼠による運動負荷実験モデルを用い、運動負荷が膝前十字靭帯に及ぼす力学的影響について検討した。本年度は同モデルを用い、強制運動負荷が膝前十字靭帯に及ぼす組織学的影響について電顕的観察を行った。その結果、非運動群の線維芽細胞の形状は大多数がovoid-shapeを呈し、核は円形であるのに対し、運動群では細胞形状はspindle-shapeで、核には切れ込み像を認めた。また運動群では非運動群に比べ、粗面小胞体やライソゾームが豊富で、細胞膜のmicroinvaginationが増加していた。コラーゲン線維の直径の分布は非運動群では50〜80nmを主体としてほぼ均一な分布を示したのに対し、運動群では大小不同を認め、20〜120nmの間に広く分布していた。以上の結果より、運動負荷を加えた膝前十字靭帯においては、コラーゲン代謝が亢進していることが示唆された。 2.前年度に引続き、駆動式間欠牽引装置を用いた家兎による前十字靭帯運動負荷モデルの作成を試みた。しかしながら、種々の工夫にもかかわらず、フックの固定性の保持、牽引力に対する家兎の保持、実験中の肢位の保持が困難で、本研究の目的である運動負荷を確実にしかも長期間にわたって家兎に加えることは不可能であった。そこで家兎を用いた運動負荷モデルによる研究は断念した。 3.平成3・4年度の研究により、本研究の当初の目的である運動負荷による靭帯疲労についてはその存在を強く示唆する一定の結論を得た。そこで平成5年度は、本研究を靭帯損傷のメカニズムからさらに治療にまで発展させるべく、靭帯損傷に高率に合併しかつ現在有効な治療法が確立されていない関節軟骨損傷に対し、軟骨細胞増殖因子による軟骨修復の可能性について研究をすすめる予定である。
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