平成3年度の本研究において、腰椎椎間関節および周囲組織における感覚受容器の特性を電気生理学的手法を用いて解析し、その一部は痛覚受容器としての機能を有することを明らかにした。本年度は、これらの痛覚容受器が急性炎症に対していかなる反応を示すかを分析した。 実験には成熟New Zealand White Rabbitを用いた。腰椎に椎弓切除術(L4-L5)を施行し、L5後根より求心性電位を記録した。椎間関節および周囲組織において機械的感覚受容器を同定した。4%kaolin(0.1-0.2ml)および2%carrageenan(0.1-0.2ml)を椎間関節部に注入し、急性炎症を惹起させた。求心性放電の活動性や感覚受容器の特性を炎症性物質投与群(炎症群、N=10)と非投与群(対照群、N=10)で比較検討した。炎症群の椎間関節部に、hydrocortisoneやlidocaineを注入し、放電の変化を観察した。 受容器からの求心性放電頻度は、炎症群が平均18.1imp/s、対照群が平均9.3imp/sで、炎症群が有意に増大していた。また、炎症群のほうが関節の動きに対して、より顕著に反応する傾向がみられた。hydrocortisone 5mgの投与により、炎症群の受容器からの求心性放電活動の抑制が観察された。また、lidocaine 0.1-0.2mlの投与により、放電活動の低下ないし消失が認められた。 以上のように、実験的に惹起した急性炎症は、椎間関節部の受容器の興奮性を増大させ、関節の動きに対する反応性を高めることが示された。即ち、椎間関節の炎症が、関節および周囲組織からの痛覚の発生に関与していることが示唆された。また、この実験モデルは、感覚受容器に対する種々の薬剤の影響の検索に応用可能であると思われた。
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