1.方法 Wistar系雄ラット(約300g)に、気管内挿管し、1%ハロセンを含む、笑気(70%)ー酸素(バランス)で麻酔した。その後、ハロセンのみ継続し、5%酸素吸入の低酸素を、3分間と10分間の2群に分けて負荷した。負荷後3時間、6時間、12時間、24時間後に各々断頭し脳を正中線で2分し、液体窒素で凍結し、組織学用の試料と電気泳動用の試料とした。形態的観察は、HSP70のモノクロ-ナル抗体を用い、ABC法による特異的な免疫染色を行なった。また、生化学的観察はO'Farrellの2次元電気泳動にて試料を展開し、Western blottingにてHSPのスポットを同定した。 2.結果と考察 形態的観察では、3分間の低酸素負荷後3時間で、海馬CA3や歯状回で呈色が見られ経時的に呈色が増強したが、24時間後には、減少傾向が見られた。10分間の低酸素負荷群では、より強い呈色が見られ24時間後も維持されていた。また、大脳皮質や線条体でも早期に呈色が見られたが、減少傾向も早かった。一方、電気泳動による観察では負荷後3時間では、3部位のどれにも、スポットの出現は見られなかったが、6時間後に海馬で見え始め、経時的に増加した。大脳皮質や線条体では、海馬よりHSP含量は低かった。電気泳動による観察では、量が少ないためか、低酸素負荷後の早期にはHSPの誘導は検出されなかったが、6時間後からのHSPの誘導の増加を、定量的に確認する事ができた。 3.まとめ 低酸素負荷により、脳の脆弱な部位にHSP70の誘導が見られた。生き残る細胞は、早期にHSPを誘導し24時間後には既に減少傾向にあった。しかし、死に至る細胞では、HSPの発現は遅いが24時間後も合成は維持されていた。
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