熱ショック蛋白質(HSP)は、名前の由来の熱ショックのみならず、様々なストレスに応答して誘導される事が知られている。その一つに、虚血時での誘導がある。本研究では、我々が従来から用いている5%酸素吸入10分間の低酸素負荷をマイルドな負荷(PaO_2=26-28mHg)とし、ベンチレーターの2分間停止をハードな負荷(20-24mHg)とし、低酸素時でのHSPの誘導について、その局在を調べまた定量化した。また、比較のため、砂ネズミ(gerbil)とラットの虚血モデルについても調べた。結果は、gerbilの虚血モデルでは、HSPは強く発現したが、ラットでは低酸素のモデルでも、虚血のモデルでさえHSPの誘導はgerbilに比べ少なかった。これには、2つの理由が考えられる。従来から、ラットは比較的低酸素に強い動物種であるとのWood(1968)らの報告があり、HSPの誘導が少ないのも、その為かも知れない。また、我々の低酸素の実験モデルは脳虚血モデルと異なり、心搏数の低下を伴うので、全身に影響を与える。このように不完全な虚血状態の時は、消化器系統主として小腸が最初に傷害を受けまた致命傷となる。これはAcker(1983)らの報告にあるように、血流量が低下した場合、血流は優先的に脳や心臓にまわり、保護されると考える事で理解出来る。低酸素負荷では、負荷の程度が強いとHSPの誘導は増え、そのピークは負荷後1-2日目で見られた。虚血の分野では、前以て弱い虚血を負荷しておくと耐性を獲得する現象が知られている。本実験でも、マイルドな負荷の場合と、ハードな負荷の双方において、1日後と2日後に2回目の負荷をかけてみたが、HSPが誘導されているにもかかわらず、傷害はむしろ累積的で耐性の獲得は見られなかった。小腸、盲腸には充血や出血が見られたが、このような場合でも、腸に分布する神経末端の神経細胞には特に変化は無かった。HSPの細胞耐性の獲得は、神経細胞に限るものかも知れない。
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