造精機能の調節にはFSHとテストステロンが重要な役割を果しているとされているが、最近マウスにおいて顎下腺より分泌されるEpidermal growth factor(以下EGF)が造精機能の調節に関与しているとの報告がなされた。もしそうだとすると精巣にはそのレセプターの存在が推定されるわけで、その証明によりEGFと造精機能との関係を裏付けることになる。そこで本研究では動物およびヒトでの精巣組織のEGFレセプターを生化学的および免疫組織化学的に検討した。実験動物としてマウス(C_3Hマウス)を用いて、その精巣をホモジネートして膜分画のレセプターを^<125>I-EGFをリガンドとして飽和分析を施行した。しかし各種インキュベーション時間、リガンド濃度にてもEGFに対する特異的結合を見い出すことができなかった。一方、免疫組織化学的(マウス抗ヒトEGFレセプターモノクロナール抗体を用いたABC法)にてマウスおよびヒト精巣を検討したところ、前年度はセルトリ細胞にEGFレセプターの局在を認めEGFがセルトリ細胞を介して造精機能に関与していると報告した。その後、例数を増したところ染色されない例がかなりあり、上記の結論を出すことはできなかった。特発性造精障害や精索静脈癌患者よりえられた精巣での検索でもEGFレセプターの存在は証明できなかった。一方、EGFと造精機能との関連に関係して精漿中のEGFを検討した。分画射精での結果より精漿中EGFは前立腺由来と考えられ、さらに精漿中EGF濃度と精子濃度には関連がないことより精漿中EGFの造精機能への関わりは少ないものと推察された。
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