ヒト腎の正常皮質から分離した糸球体は、イーグル培養液中で自発収縮を示すものと示さないものがあり、自発収縮性それ自体が不安定な指標であった。したがって、病的腎との比較は行なわなかった。 トリトン処理系球体のCa^<2+>に対する収縮反応は、5μMCa^<2+>で20.5±8.5%の収縮率を示した。一方、慢性腎炎、ネフローゼ、先天性水腎症から採取した糸球体も、トリトン処理によってCa^<2+>によく反応するようになり、SμMCa^<2+>に対する収縮率は19.5±6.8%であり、正常腎と疾患腎の間で有意差を見い出せなかった。したがって、糸球体細胞内の運動装置、換言するなら細胞内アクトミオシン系については、各種疾患においてもよく保存されていると考えられる。このことは、病的腎の糸球体アクチン染色が正常腎とほぼ同じ位の所見であったことにより裏づけられた。今回の検討からは、予想した指標がほとんどネガティブなデーターを示すにとどまったので、糸球体細胞の運動性と関連するパラメーターとしては、細胞内よりも細胞膜の受容体を反映するものがよいと考えられる。 そこで正常腎の分離糸球体に対し、アンギオテンシンII(Ang-II)による糸球体収縮反応を新たに検討した。その結果、5〜10MMAng-IIは糸球体に9.5±3.6%の収縮率をもたらし、Ang-II受容体を有することが明らかとなった。Fura-2による細胞内Ca測光からは、Ang-IIによって細胞内Ca^<2+>レベルが最初急激な上昇を示したのち緩除な上昇となる、2相性変化を示すことが判った。これらの所見を新しいパラメーターとして、次年度から疾患腎の糸球体を検討することにした。
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