前年度までの研究で我々は、絨毛癌患者が胞状奇胎任娠の既往を有する場合はその責任妊娠は胞状奇胎妊娠である可能性が大きく、従ってその絨毛癌細胞には患者の有しない夫由来のMHC抗原が存在し、患者の免疫監視機構により感知される可能性が大であることを述べた。今年度の研究に於て我々はサイトカインの一種であるインターフェロンを使用して、このMHC抗原の表現強度が増強されるか否か調べる予定であったが、我々の意図した研究の凡そ同様な結果は最近になり既に多数の研究者により“インターフェロンによってはMHCの抗原性は増強する"という結果が報告されつつあるので、今年度はサイトカインの効果でも最近注目されており臨床病態的にもより重要と考えた“サイトカインによる癌細胞の浸潤転移能への効果"を調べた。 癌細胞の浸潤転移能とタイプIVコラゲナーゼとの研究が最近注目されている。臨床的に絨毛癌は早期より血行性転移をおこすが、今回我々はin vitro絨毛癌細胞について癌細胞の持つタイプIVコラゲナーゼ活性とインターフェロンによる癌細胞浸潤抑制効果との関係を検討した。絨毛癌株5株につきタイプIVコラゲナーゼ活性をザイモグラフィー解析した(Filderらの方法)。さらにAlbiniらの方法によりトランスウエルセル培養チャンバーを用いてインターフェロン処理による浸潤細胞数を測定しコラゲナーゼ活性の変化を比較検討した。結果として絨毛癌細胞では72kDaタイプIVコラゲナーゼ活性が高く、絨毛癌血行性転移への関与が示唆された。さらにはインターフェロンbetaのみが臨床使用可能濃度で絨毛癌細胞の浸潤を抑制し、これがタイプIVコラゲナーゼ活性の抑制に起因することが示された。
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