研究概要 |
正常子宮内膜の上皮細胞と間質細胞におけるestrogen receptor(ER),progesterone receptor(PR),およびKiー67の局在とその月経周期による変化が判明し,さらに,成長因子受容体も内膜上皮は主にcーerbB2protein,内膜間質は主にEGFRを発現するという,これら膜蛋白受容体の機能分担が示唆された。すなわち,正常内膜上皮の増殖と分化はこれらの因子の相互作用によって調節されていると考えられる。一方,内膜増殖症および内膜癌での性ステロイド受容体発現の正常内膜との差異が次第に明らかとなってきた。すなわち,正常内膜では黄体ホルモンが作用すると,間質細胞の脱落膜化と上皮細胞の萎縮が認められるが,この際,間質細胞のPRは維持され,上皮細胞のER,PRはdownーregulateされてくる。内膜増殖症の中でも嚢胞性腺増殖症(cystic glandular hyperplasia)の場合には,ER・PR発現の変化は正常内膜と同様であるが,異型増殖症(atypical hyperplasia)では上皮細胞のER・PRのdownーregulationが不十分であること,さらに,内膜癌では間質細胞がもともとPR陰性であり上皮細胞はER・PRのdown regulationを受けないことが判明し,内膜上皮の腫瘍化の過程には,間質細胞の変化に伴う性ステロイド受容体発現調節機構の異常の存在が示唆された。このことは,若年女性に発症した内膜増殖症や内膜癌に対する黄体ホルモン剤の長期投与の臨床的検討からも裏付けられてきている。又,内膜癌の成長因子受容体発現では,cーerbB2 proteinの発現亢進,および一部の腫瘍では通常の内膜上皮ではほとんど発現しないEGFRの発現も観察されている。さらに,一部の内膜癌では癌抑制遺伝子p53の変異によると考えられる異常なp53 proteinの免疫組織学的発現が認められてきている。
|