本研究は、ヒト卵巣癌細胞の腹膜中細胞への浸潤機構を解明するためのin vitro実験モデルの開発ならびにモデルを用いた渓潤抑制物質のスクリ-ニングを行うことを目的とする。中皮細胞として手術時に採取したヒト腹膜皮細胞及びラット腸間膜膜由来中皮細胞を用いた。中皮細胞の至適培養条件を検討した結果、採取組織を0.25%トリプシンで消化後10%FCS加2倍濃度のアミノ酸・ビタミンを含むMEMで培養することが最適と考えられた。卵巣癌細胞として多種の株化細胞を検討した結果、10%FCS加Ham's F12にて培養しているヒト卵巣ムチン性腺癌RMUGーS(慶応大学野澤志朗博士より供与)が最適と考えられた。ヒト腹膜及びラット腸間膜より得られた細胞はシャ-レ上で単層、敷石状に広がって増殖し、播種後約5日でほぼ飽和細胞密度に達した。この細胞は、酸性ホスファタ-ゼ活性が陽性、抗ケラチン抗体に陽性、ペリカンインク貧食能は陰性であったことより中皮細胞と考えられた。中皮細胞上にRMUGーS細胞を重層すると、癌細胞は中皮細胞層上に接着し、細胞間結合間隙から中皮細胞層下に浸入した。浸入した癌細胞は時間の経過と共に増殖しコロニ-を形成した。縦断面の組織切片を用いた検索では、癌細胞は中皮細胞層を越えて浸潤していることが確認された。浸潤した癌細胞数は、重層した勧細胞数の増加と共に、また重層後の時間の経過と共に増加し、約24時間後にほぼ一定値に達した。従って、RMUGーS細胞を用いた卵巣癌細胞浸潤能の測定には、1×10^5/dishの癌細胞を中皮細胞層上に重層し24時間後に判定することが最適と考えられた。現在、本実験系を用いて種々の浸潤抑制、促進因子の検討を行っている。
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