前年度に開発したヒト卵巣癌細胞の浸潤モデル培養系を用いて、浸潤機構の解明と浸潤抑制物質の検討を行った。浸潤モデル培養系では浸潤がおこるために血清の添加を必要とするがん細胞と全く必要としない細胞とがあることが判明した。前者にはラット腹水肝癌細胞やヒト肺小細胞癌細胞が属し、ヒト卵巣癌細胞RMUG-Sは後者に属し無血清培地中でも対照と変わらないin vitro浸潤能を示した。血清要求性がん細胞では血清中の因子(分子量9万)がリガンドとなってがん細胞のホスフォリパーゼDの活性化によるリゾホスファチジン酸の生成が浸潤誘発の初期反応になるものと考えられた。RMUG-Sではこの初期誘発反応がすでに完了しているものと思われた。いずれの細胞株もボトリヌス菌毒素C_3によって浸潤が強く抑制されrho(低分子G蛋白)による接着機構の活性化が浸潤能を支配していると予測された。浸潤抑制物質としてはStreptomyces Chibanensisより分離された抗菌剤azatyrosineを選び検討を加えた。RMUG-Sはこの物質の存在下で培養すると増殖抑制、形態変化を伴ってin vitro浸潤能がほぼ完全に消失した。この浸潤能の消失は増殖の抑制とは独立した現象であった。そこでRMUG-S細胞表面の接着因子について検討を加えたところCD46の著明な減少のあることが明らかになり、浸潤能の消失は中皮細胞への接着能の減少が原因であると考えられた。
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