研究概要 |
Wigglesworth法により一側の子宮血管を結紮することにより作成した胎齢20日目の実験的子宮内発育遅延(IUGR)ラット胎仔において以下の知見を得た。 1.胎仔血由来である羊水中カテコラミン系物質を測定した結果,IUGRではノルエピネフリン,エピネフリンは正常発育例に比較し有意な高値を示した。特に,エピネフリンの著明な増加が特徴的であった。 2.IUGR胎仔では副腎エピネフリン含有量が正常発育胎仔に比べ有意に減少していた。 3.IUGR胎仔に急性ストレス(出血性ショック)を負荷した際の血中カテコラミン系物質を測定した結果,エピネフリンはIUGR胎仔では正常発育胎仔に比較し有意な低値であった。 以上より,IUGR胎仔は慢性ストレスに対し自己のホメオスタ-シスを維持すべく交感神経・副腎髄質系を発動しており,その結果,羊水中カテコラミン,特にエプネフリン濃度が高値となっていると考えられた。また,エピネフリンの主要産生臓器である副腎髄質におけるエピネフリン含量の低下はエピネフリン放出の亢進による可能性が高いと推察された。さらに,IUGR胎仔における急性ストレス負荷時のエピネフリン分泌能の低下は副腎髄質エピネフリン含量の減少に起因し,IUGR胎仔におけるストレス防御機能の減弱(胎児予備能低下)を意味するものと理解された。 次年度は胎仔副腎エピネフリン合成能を酵素学的に検討するとともに,本年度に得られた基礎的知見に立脚して,臨床的にIUGR胎児のカテコラミン動態を胎児心循環系の変化との関連の上に検討し,IUGR胎児の病態理解と機能的診断におけるカテコラミンの意義と有用性を追求する計画である。
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