上記課題の研究において、平成5年度までにまとまった結果は妊娠ラット子宮筋をモデルとしたものが中心となった。塩酸リトドリンはβ_2-アドレナリン受容体を介して子宮収縮を抑制するが、ラット子宮縦走筋のβ受容体は妊娠15、18、21日と妊娠進行に伴って最大結合量や親和性は上昇したが、前二者の受容体は正の協同性を示し、21日目は負の協同性を示した。そこで、妊娠21日目の同縦走筋の自発収縮記録下にリトドリンを長時間投与すると、収縮は一旦完全抑制された後にしばらくすると再出現してくる。これが臨床上切迫早産治療中に認められる脱感作現象のモデルであるが、同様にして同縦走筋束培養下にリトドリンを投与して細胞内cAMP産生量を測定すると、一過性の著明な増加の後次第に減少して小さく変動した。ここで、その時点でのcAMP産生量と収縮変化を直接比較する為に、実際に収縮を記録している筋切片中の濃度を測定すると、収縮完全抑制時のcAMP量は有意に高いが、収縮再出現時の量は低下はするものの依然コントロール値よりも有意に高かった。次に、β受容体量の変動について検討した。20分間リトドリンを作用させると、3×10^<-8>M以上で細胞膜受容体量の増加を示し、3×10^<-7>Mで最大となり、それ以上では次第に減少した。長時間投与においては、20分後までは受容体量は増加し、その後コントロールレベルにまで減少して、90分以降は変動して推移した。このような結果から、低濃度のリトドリンはβ受容体の細胞膜表面への露出や合成などを含めた効果増強作用を示し、高濃度は細胞内cAMP産生は増加させるものの、容易に受容体の脱感作現象を誘発する事が判明した。長時間投与においては、細胞内cAMP量とβ受容体量と収縮変化は同様の時間経過で変動する事から、連動して基本的には変化するものの、収縮抑制に関してはcAMP量以外の因子の関与も示唆された。
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