直接塩基配列決定法により検出された子宮体癌のRAS点突然変異症例は予後が極めて不良であることが判明したが、この予後不良をもたらすRAS点突然変異が癌細胞の生物学的特性にどのように影響を与えているかを検討するため、細胞増殖、癌浸潤能、さらに生体の免疫反応について検討した。癌細胞の増殖能の評価としてAgNORを用いてRAS点突然変異症例の増殖状態を検討した所、従来報告されているin vitroでのtransfectionによる結果とは異なり、RAS点突然変異症例は必ずしも増殖が活発ではなく、生体内ではRAS点突然変異の存在は癌細胞の増殖に与える影響は少ないと考えられた。次に子宮体癌のp53の点突然変異と増殖能について検討した。酵素抗体法によるmutant p53陽性症例の増殖indexは高い傾向にあり、また陰性部ではPCNAも陰性であり、生体内でもmutnat p53は細胞増殖に関与している可能性が示唆された。また、RAS点突然変異の免疫機構に与える影響について検討するため、子宮体癌組織を用いて酵素抗体法により癌細胞のMHC-class I抗原の発現について検討した。RAS点突然変異のある症例ではMHC-class I抗原の発現が減弱しており、また、変異のない症例ではMHC-class I抗原の発現を認める症例が多く、RAS点突然変異の発生はMHC-class I抗原の発現を抑制することにより免疫学的監視機構からのescapeを誘導し、これが予後に影響を与えている可能性が示唆された。さらに子宮体癌の細胞株を用いてRAS癌遺伝子の点突然変異の有無による浸潤能の相違についてMatrigelを用いたAlbiniらのin vitro invasion assayにより検討した。その結果、RAS点突然変異を有する株は必ずしも浸潤能が高くはなく、癌の浸潤にはRASの点突然変異が不可欠である結果は得られなかった。また、浸潤能は株の由来する組織の分化度と相関した。c-mycの増幅は24症例の検討では1例も観察されず、体癌の発生、進展にc-mycの増幅は関与していないことが示唆された。
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