老人においては加齢により身体のバランス保持機能が低下するが、これは加齢に伴う前庭感覚細胞や神経細胞の変性と中枢における情報処理の変化と考えられている。中枢神経には種々のカルシウム結合蛋白がある特定のニューロンに分布し、様々なニューロンを機能的に分類する際の良いマーカーになることが知られている。前庭系においてはCalbindinは大型の前庭神経節細胞に分布し、又前庭末梢器では中心部の径の太い神経線維に分布する。これらの分布様式からCalbindin陽性細胞は前庭末梢器の中心部からの情報を受け取っているニューロンであると考えられる。 老化に伴い前庭第一次ニューロンが減少することが知られているが、今回老化に伴う前庭神経系の質的変化を明らかにするため、老化促進マウスの前庭第一次ニューロンに分布するカルシウム結合蛋白(Calbindin)を免疫組織化学的に染色し、いかなるニューロンが変化するかを検討した。前庭神経節におけるCalbindin陽性/陰性細胞の数を比較した結果、主としてCalbindin陰性細胞が加齢とともに減少することが明らかとなった。細胞の興奮に伴うカルシウム流入は神経伝達物質の放出に必要不可欠のプロセスであるが、一方で過剰のカルシウムは細胞障害を起こすことが知られている。一般に中枢神経系では種々のカルシウム結合蛋白は細胞内のカルシウム濃度の調節に重要な役割を果たしていると考えられており、実際Calbindin陽性ニューロンは種々の神経毒や変性に対し、抵抗性のあることが報告されている。今回、前庭系においてもCalbindin陰性細胞は加齢変化を来たしやすいのに対し、Calbindin陽性細胞は加齢の影響を受けにくいことが明らかとなった。すなわち、加齢にともなうCalbindin陰性ニューロンの変化が加齢に伴う平衡障害の一因になっている可能性が推測された。
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