前庭小乳のうち小節・虫部垂は垂直性眼球運動に関与し、その抑制性繊維が眼球運動の安定性に関与していると考えられる。本年度の研究の臨床的な検討としては、この様な眼球の安定性を欠如している症例について検討を加えてみた。基礎的な面からの検討として、まず神経系の発生学的な面から、神経繊維の伸展に関与しているとされる種々の細胞接着因子の末梢前庭器および中枢系での分布を組織学的にマウス、ラットを用いて検討を行なった。時にNeural cell adhesion molecule(NーCAM)につきマウスを用いて胎生期の初期、中期、後期および生直後の発現について、NーCAMにたいする単クロ-ン抗体を用いて免疫組織学的に検討を加えた。このNーCAMを含めた神経系における細胞接着因子は神経の発生のみならず神経障害のさいに発現されるとされ、神経繊維再生のために重要な因子とされる。そこで、一側の迷路破壊、前庭神経切断等による末梢前庭器障害における前庭器、前庭核および前庭小脳の神経伝達物質、細胞接着因子の変化を検討した。しかし小動物では前庭代償の発現が哺乳動物に比較して非常に早いこと、麻酔方法の問題などまだ実験上の問題点が解決されていない。この点が解決されることにより、今後の検討課題としては組織学的な面のみならず、末梢前庭器、中枢系における発現の程度を定量的に検討することが必要となってくる。細胞接着因子の他、細胞外マトリックス、神経ペプチドについても検討中である。
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