人の慢性中耳炎や中耳真珠腫に代表される中耳慢性炎症病態例では、含気蜂巣の抑制と共に上鼓室天蓋部の低下やS状静脈洞の前方偏位などの病的状態を呈していることが多く、このような病態は中耳から乳突洞やさらにその末梢の乳突蜂巣への換気を障害し、中耳慢性炎症病態を継続する要因となっている。そこで生後6ヶ月の短期間で人と同様な乳突蜂巣を形成する豚を用いて、蜂巣の抑制される過程と上鼓室天蓋部の低下やS状静脈洞の前方偏位状態との関係について研究を行った。 実験は豚正常出生例の左耳について、生後7日以内の発育早期に経外耳道的に鼓膜を破って中耳腔内に流動パラフィン1.5mlを注入した。今回は4頭4側生後196日で断頭した。他の4頭にインフルエンザ菌注入実験を行ったが、このグループは全例が何らかの原因で死亡したため、検討を加えることが出来なかった。脱灰後に乳様突起の最長最幅面で割面を加え、H-E染色とマッソン染色を行った後、組織学的に検討を加えた。 実験結果よりこの4例に乳様突起自体の抑制を認めた。その抑制過程について以下にその特徴を述べると、【.encircled1.】抑制を生じた部位は線維性造骨部で、含気腔内の炎症性刺激により腔上皮下の骨吸収および腔拡大に働く骨代謝が障害された結果であった。【.encircled2.】含気腔上皮下の骨代謝障害と共に外側骨膜部での線維性造骨も障害されており、乳様突起自体の発育も抑制されていた。以上より内腔に加わった初期の炎症性刺激が薄い骨皮質を通して外側の骨膜部まで影響を及ぼしたと考えられ、外側での海綿骨形成が障害されたために乳様突起自体の発育も抑制されたと考えられる。この所見から慢性中耳炎例や中耳真珠腫例の手術時に観察される上鼓室天蓋部の低下、S状洞の前方偏位はこれらの部位の外側への側頭骨の発育障害によって生じた結果と理解することが出来る。
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