人の慢性中耳炎や中耳真珠腫に代表される中耳慢性炎症病態例では、含気蜂巣の抑制と共に上鼓室天蓋部の低下やS状静脈洞の前方偏位などの病的状態を呈していることが多く、このような病態は中耳から乳突洞やさらに末梢の乳突蜂巣への換気を障害し、中耳慢性炎症病態を継続する要因となっている。そこで生後6ヶ月の短期間で人と同様な乳突蜂巣を形成する豚を用いて、蜂巣の抑制される過程と上鼓室天蓋部の低下やS状静脈洞の前方偏位状態との関係について研究を行った。 実験は豚の左耳について、生後7日以内の発育早期に経外耳道的に鼓膜を破って中耳腔内に流動パラフィン1.5mlを注入した。全体で15頭15側でこのうち4側に乳様突起自体の抑制を認めた。また実験結果を臨床的に反映するために、人と豚の側頭骨含気蜂巣の正常発育過程について比較検討した。 豚の実験結果から、側頭骨の発育早期に加わった含気腔内の炎症性刺激のために、腔上皮下の骨代謝が障害されると含気蜂巣は抑制され、さらに外側骨膜部での骨代謝も同時に障害されると、乳様突起自体の発育も抑制された。これら含気蜂巣の抑制および乳様突起自体の抑制を認めた部位は線維性造骨による骨代謝様式を示していた。一方人の線維性造骨形態を示す部位として、上鼓室天蓋、乳突蜂巣後壁部、側頭骨外壁部と乳様突起先端が観察され、部位によってその発育時期が異なっていたが、これらの部位での発育期内の骨代謝の障害は慢性中耳炎例や中耳真珠腫例の手術時に見られる上鼓室天蓋部の狭小化、S状洞の前方偏位や肥厚した骨皮質所見につながる病態と理解出来た。以上より、線維性造骨部位について、含気腔の部位別発育時期を考慮して、その発育期間内の炎症性刺激を避けることが、後の含気腔や側頭骨の抑制状態を防ぎ、延いては中耳慢性炎症病態への移行を予防する意味からも重要な点と考えた。
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