研究概要 |
頭頚部悪性腫瘍患者に滲出性中耳炎が生じることは知られているが耳症状を訴えないsilent otitis mediaに罹患していることも少なくない。本研究の目的は客観的耳管機能検査装置を用いて臨床的にその頭頚部悪性腫瘍の耳管-中耳へ及ぼす影響を解明することである。本年度の研究実施計画は局所腫瘍摘出術、頚部郭清術の耳管-中耳に及ぼす影響をValsalva法,Toynbee法などで調べる予定であったが術後検査に抵抗を示すことが多く放射線療法も加えた。頭蓋底まで及ぶ副咽頭間隙腫瘍の一症例では自覚的に耳症状を訴えていなかったが術前ティンパノグラムでB型、音響法、インピーダンス法共に耳管機能閉塞型を示しsilent otitis mediaが示唆された。腫瘍摘出後も客観的耳管機能検査で閉塞型を示したが自覚的に耳症状は認められなかった。上顎癌の症例で放射線治療中に鼓膜が内陥し術後に滲出性中耳炎となり鼓膜チューブ留置をせざるを得なかった。滲出性中耳炎で鼓膜チューブ留置されていた症例で内視鏡検査、客観的耳管機能検査を行った結果上咽頭腫瘍が検出され耳管機能障害のある症例では内視鏡的検査は必須と考えられた。頭頚部悪性腫瘍の放射線療法において音響法、インピーダンス法を用いることにより4症例の耳管開放症を検出した。両側の蝶形骨洞から頭蓋底に腫瘍の浸潤のある一症例では治療中に一側が耳管開放型を示し他の一側は耳管狭窄型で滲出性中耳炎となった。このことから頭頚部悪性腫瘍に対する放射線療法は耳管狭窄および耳管開放症の成立機転に関与すると考えられた。放射線治療後に耳管粘膜下組織がdense fibrous connectiveに置換した報告(1990)は臨床的にも放射線治療後に耳管開放症が生じうることを示唆していた。今回の研究により客観的耳管機能検査及び内視鏡による鼓膜、耳管咽頭口の観察などは頭頚部悪性腫瘍患者のsilent otitis mediaのみでなく耳管開放症の検出に役立つものと考えられた。
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