研究概要 |
本年度の研究計画は,免疫組織学的手法を用いてヒト剥離網膜でのグリア細胞の動態を検討することであった。glial fibrillary acidic protein,cellular ratinalーbinding protein及び抗ミュ-ラ-細胞単クロ-ン抗体を用いて,変性網膜中のアストロ細胞とミュ-ラ-細胞を同定することに成功した。ヒト剥離網膜では神経線維層にアストロ細胞の著しい増殖がみられるが,他の網膜各層においてはミュ-ラ-細胞がグリオ-シスの主体となっていた。このようにグリオ-シスの主役たる細胞が網膜の層別に異なることは,これまで知られていなかった知見であり,網膜変性におけるグリアの役割を考える上で重要である。この成果は現在発表準備中である。一方,増殖性硝子体網膜症の患眼から手術的に切除された網膜前増殖膜を,同様の手法で検索しグリアの同定を行なった所,網膜前増殖膜ではグリア成分としては,アストロ細胞が主体をなし,ミュ-ラ-細胞の因子が少ないことが明らかとなった。これは,これまでの形態学的観察では同定し得なかったものであり,増殖膜の病因を考える上で重要な知見である。この成果は平成4年度のアメリカ眼学会(ARVO)にて発表予定である。 細胞の増殖過程においては各種の増殖因子が関与することが知られている。網膜色素上皮細胞(RPE)は,増殖膜の主要構成細胞の一つであり,これと増殖因子の関連を調べることは,増殖膜形成過程における網膜とRPEの相互作用を理解する上で基本的な知識として必要である。分子生物学的手法,とくにpolymerase reaction(PCR)を用いて,種々の増殖因子とRPEの関連を調べた所,PDGF,ECF,FGF,TGFーbeta,等の因子がRPEの増殖に関係していることが明らかとなった。その成果は,平成4年度のARVOにて発表予定である。
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