研究概要 |
脳死標本をつくる方法として1)心臓電気ショック,2)高濃度笑気ガス吸入,3)天幕へルニア,4)内頸動脈結紮と椎骨動脈クリッピングの4法について予備実験を行った。その結果,確実に脳死状態をつくり,長期間維持するには4)が最も優れていた。4)による脳死の確認法,および除神経効果出現の有無(ピロカルピン点眼試験)の結果について述べる。 ネンブタール麻酔下に内頸動脈結紮と椎骨動脈のクリッピングを行った。この処置で自発呼吸は停止するので人工呼吸器により空気に酸素を混じ送入した。両動脈の結紮後,次第に瞳孔は散大し,3時間前後で中等度散瞳し固定した。この間,坐骨神経刺激による,いわゆる反射性散瞳は,次第に減弱していき,瞳孔が中等度散大固定すると,脳死前には最大散瞳がえられていた反射性散瞳が消失した。反射性散瞳は広義では毛様脊髄反射に相当するものであり,これが今回の脳死実験で消失したことはヒトの脳死判定への応用の可能性が示唆されて興味深い。すなわち,ヒトで体性感覚刺激による散瞳反射の脳死判定補助診断への応用である。これは今後,検討されてよい検査法と考えられた。また,聴覚脳幹誘発電位(ABR)も脳死3時間後で消失した。従来,ABRのヒトの脳死の判定への応用には問題点が指摘されているが,今回の脳循環完全停止下ではABRは消失した。 主題の除神経効果の発現については,脳死後生存可能であった48時間以内では出現しなかった。ヒトでみられた自律神経作働薬に対する過敏性の発現機序は除神経効果の早期出現というよりも,脳死下では脳循環は停止か,ほとんど停止した状態であり,脳死後の眼房水のターンオーバーの遅滞,虹彩やその周囲組織の血流の停滞による薬物の蓄積や代謝遅延などを反映した現象と推察され,除神経効果の早期発現は否定的であった。
|