ヒト硝子体では、二次元電気泳動による分析結果から、30種類以上の可溶性蛋白が存在し、これらのうち18種類が血清蛋白であることで血清の泳動パタ-ンとの比較から推定された。一方、血清には認められていない蛋白が10種類近く存在した。アフィニティ・クロマトグラフィについては、まず血清蛋白そのものを試料として行ったところ、ほとんどの蛋白は血清成分に分離され、その有効性が確認された。硝子体可溶性蛋白については、泳動パタ-ンの比較から血清蛋白と考えられた蛋白は血清成分に、非血清蛋白と考えられた蛋白は非血清成分として分離された。これらの結果から、ヒト硝子体中には血清由来ではない蛋白が存在することがより確実となった。蛋白量としての比率は血清蛋白が約80%に対して、非血清蛋白が約20%であった。 培養液に凍結乾燥したヒト硝子体可溶性蛋白を溶解して、培養ヒト網膜色素上皮細胞に添加したところ、コントロ-ルに比べて有意に細胞増殖を促進した。血清成分と非血清成分を別々に添加したところ、両成分とも細胞増殖を促進したが、蛋白量に換算すると、その効果は非血清成分の方が約4倍大きかった。以上の結果から、硝子体可溶性蛋白には網膜色素上皮細胞の増殖を刺激する成分が含まれていることが示唆された。 一試料のみ、増殖性硝子体網膜症患者から得た硝子体の電気泳動による分析を行うことができた。正常硝子体に比べて、低分子量領域に多数の蛋白成分が認められ、これは血清の泳動パタ-ンとも異なっていた。平行して、ウサギ硝子体の分析を行っており、ウサギの場合にも硝子体中に非血清蛋白の存在が確認されつつあり、ヒトと同様、細胞増殖に関する実験を予定している。また、細胞増殖刺激因子については、FGFが硝子体中に存在するとの報告もあるので、現在イムノブロットおよびELISAによるFGFの検出を計画中である。
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