研究概要 |
本年度は再生線維の髄鞘形成と,再生視神経細胞の光刺激に対する応答を調べた。 正常なネコの視神経ではほぼ100%の線維が髄鞘線維に覆われている。末梢神経を移植して60日後に再生した視神経線維が髄鞘を被っているかどうかを,BioCytinの順行性標識と電顕観察によって調べた。3例の移植神経で計511本がBiocytinに標識されていた。標識された神経線維の数と有髄線維の割合は3例の間でばらつきが大きく,神経線維の数が323から67本,有髄線維の割合が2.8%から76.1%の開きがあった。再生視神経線維の髄鞘形成の様式は末梢神経のそれとほぼ同じで,無髄線維は数本まとまっていた。これらの標識された線維の直径を計測したところ,有髄線維は0.8μmと1.2μmにピークのあるbimodalな分布を示し平均直径は0.89μmで,無髄線維は0.4μmにピークのあるunimodal分布で平均直径は0.55μmであった。正常な視神経線維の髄鞘の厚さは軸索の直径にほぼ比例し,軸索直径に対する髄鞘直径の比は0.8である。再生線維でこの比を求めたところ,0.77で正常な視神経の価に近かった。以上のことから髄鞘に囲まれた再生線維の大部分は,この時期(移植後60日)にはすでに正常な神経と同じように厚い被膜を形成していることがわかった。 移植片から細い神経束を剥離し,この神経束を銀線に載せて,再生視神経細胞の光刺激に対する応答を調べた。合計103個のユニットが記録でき,その内訳はYが28個,X47個,W10個およびいずれとも判定できないもの18個であった。YおよびX型細胞の占める割合はそれぞれ27.2%,45.6%で,先にLucifer Injection法で求めた割合とほぼ同じであり,ここでもY(α)の占める割合が正常網膜よりも高くなっていることがわかった。大部分のユニットは光刺激に対して,正常な網膜のY型,X型,およびW型の応答と何ら変わりない反応を示したが,一部のユニットで正常では見られない応答を示したものもあった。すなわち,光の頻回刺激に対しして次第にスパイクの数が減弱するもの,受容野の形が楕円のもの,そして周囲の受容野の一部にだけに抑制領域があるもの,等であった。これら異常なユニットが見いだされたことは,軸索の切断と再生の過程で双極細胞あるいはアマクリン細胞からのシナプスの,少なくとも一部が変性して消滅したことを示すものと考えられる。
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